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裸眼で網膜の中心部(黄斑)に焦点を結ぶ屈折状態を正視といいます。ところが、焦点が網膜よりも後ろにある・すなわち眼軸が短い状態を遠視、逆に焦点が網膜により前にある・すなわち眼軸が長い状態を近視といいます。生まれたときは顔も眼球も小さい状態で遠視ですが、成長とともに眼軸が伸びて、遠視が弱くなる・ちょうど良い長さの正視になる・伸びすぎて近視になるという変化を遂げます。 東アジア人は近視の多い民族です。(狩猟民族では近視が不利であるために自然淘汰され、農耕民族では生き残ったといわれています。) さらに近年、近視は増加し強度になる傾向にあります。強度の近視では加齢とともに網膜剥離・緑内障・黄斑変性症などの視力障害をきたす疾患が増えます。我が国の現在の中途失明の原因は、緑内障・糖尿病網膜症・加齢黄斑変性症・変性近視の順になっていますが、今後は近視に関わる疾患(変性近視・緑内障)が増えてくるであろうといわれています。近視の進行予防は我が国の将来のために非常に重要な課題なのです。 眼軸の成長(近視化)は21~22歳くらいで完了しますので、この時期までに眼軸が伸びるのを最小限にすることは、長寿の人生の最後までしっかり見えるかどうかを左右することとなります。 両親のどちらか、もしくは両方が近視である場合は、ほとんどの児が近視になります。これは眼軸長の遺伝子からですが、その上、環境要因が大きく重なっていることがわかってきました。近くのでものを見続けることは眼軸を伸ばす、すなわち近視を進行させます。昔からいわれてきた「姿勢よく」ということは本当に大切なことだったのです。幼児期から姿勢よく読み書きする習慣をつけましょう。よい姿勢は食事にも相通ずるものがあります。お茶碗とお箸を正しく持って美しく食べる、いわゆる日本人としての行儀作法は幼児期にこそ習慣化させるべきでしょう。また、屋内遊びより屋外遊びをする児の方が近視化しにくいということもわかっています。ゲームやテレビを長時間見続けることは目にとっては良いことではありません。子どもは外で元気によく遊びよく眠ることが大切です。 また、近視になったら適切な眼鏡をかけることも、近視の進行予防に重要であることが証明されました。視力が低下しているにもかかわらず眼鏡をかけない、もしくは弱い眼鏡・古い眼鏡をかけていると近視はより進行しやすくなります。 映画にテレビ、ゲームまで3Dが大流行です。幼児は視機能(視力・両眼視機能)の発達過程です。3Dは両眼視機能がしっかりなければ味わうことができませんので、斜視や斜位・不同視(左右の目の度数が大きく異なる)などがあると難しくなります。 また、3D映画を長時間見続けることで斜視になってしまったという報告もあります。幼児期は3Dを取り入れるには注意を要する時期であると思います。 我が国では男性の5%、女性の0.2%が先天性色覚異常です。女性の10%が保因者ですので両親が正常でも色覚異常児は生まれます。色覚異常とは一番多い正常者の色の感じ方と異なるパターンのもので、色が全くわからないのではありません。個人差が大きく、明るさや面積、注意力にも左右されますが、大雑把にいうと、赤と緑、橙と黄緑、茶と緑、青と紫、ピンクと白・灰色、緑と灰色・黒、赤と黒、ピンクと水色、が近い色に感じる傾向があります。 進学制限はありませんが、就職や資格制限(パイロット・鉄道・船舶・警察など)がありますので、進路を決める際には重要です。 また、色覚が異なることが原因で、家族や園・学校生活で誤解(真面目に色塗りをしない、うっかりミスがあるなど)をされていることがあります。社会の色覚バリアフリーを勧めることは大切ですが、児の色覚という個性を理解することも大切です。現在は、小学校4年生の希望者にのみ色覚検査を実施していますが、希望を出さないと色覚検査を受ける機会はありません。気にかかることがあれば園児でも検査は可能ですので、眼科に相談しましょう。 ボールを受けるのが苦手、下りの階段や高い遊具への昇り降りを怖がる、積み木やパズルをしたがらない、ぬり絵やなぞり書きが苦手、ハサミやひも通し・ペグさしなどが苦手な場合、視力は良いにも関わらず、物の形を記憶したり、眼球を動かして追視したりする視覚認知機能の発達が遅れている可能性がありますが、適切な訓練をすることによって改善が見込まれます。学童で板書が苦手などの学習障害児にもこのような例が含まれていますが、残念ながら、ほとんど放置されているのが現状です。 さくら眼科 院長 松久充子 |